2016年7月7日木曜日

Business Journal 2016年7月5日掲載の多賀城市立図書館記事の疑問点

 「市教委が密かに蔵書を追加購入」というパートで移転前休館中に新刊書を購入していた事実を指摘して「このようにして、市教委は密かに市民の求めるであろう蔵書を購入していたのだ。」というまとめをされていますが、いろいろと論が混ざっている印象を受けたので整理してみたい。



1. 休館中の資料購入の意図
 図書館が移転等で長期閉館中だとその間も資料は買うのが普通ではないのかというのが疑問点。閉館までに予算を使い切るのが普通では?という意見も頂戴したのですが、出版流通、初版部数が下がっていて初版のみで終わるものも多く、刊行時点に購入をしていなかったらその後で新刊としては調達できないものが出てきかねない。

 海老名市の改装時は2014年12月〜2015年9月末まで改装のため休館しているが、この期間中に刊行された資料も新着図書以外の棚でも多数提供されている。(但し購入時期はWebOPACの書誌データでは確認が取れないので再開館後の調達の可能性は否定出来ない)
 日本図書館協会の年刊「日本の図書館 統計と名簿」を見ると資料費には経常費と臨時費の合算が掲載されており内訳は臨時費として備考に掲載している。(図書費など資料費内訳は経常費のみ掲載)休館中の資料購入を経常費、臨時費どちらで措置するかは自治体次第のように見えるので、多賀城市が経常費としての資料費を従前通りとした事を異常だと判断するのは無理があるのではないか。


例)新築・移転または100万円以上の臨時費が措置されている資料費・図書費推移
 人口6万人〜8万人未満より一部抽出。
 「日本の図書館 統計と名簿」2013〜2015年版による。(単位:千円)

八幡市立八幡市民 2014年9月〜2015年3月休館 
→臨時費を設定せず平年度の資料費をほぼ維持。
 2013年予算 資料費23,347、図書費20,000
 2014年予算 資料費23,803、図書費18,692
 2015年予算 資料費23,886、図書費18,692

三木市立中央 2015年4月26日休館閉館。2015年7月開館。
→2015年度図書費が270万円引き下げられているが、その分を臨時費で措置している可能性がある。
 2011年決算 資料費20,083、図書費16,923
 2012年決算 資料費23,405、図書費19,074
 2013年決算 資料費21,735.、図書費17,536

 2013年予算 資料費20,000、図書費16,650(1,379千円/月)
 2014年予算 資料費21,415、図書費17,000(1,417千円/月)
 2015年予算 資料費26,099(臨時費6,500)、図書費14,300(1,192千円/月)

福知山市立中央館 2014年2月末から休館。2014年6月移転開館。
 (2014年4月日進分館が公民館図書室に移行)
→移転年度以降の経常費はほぼ一定。
 2011年決算 資料費7,849、図書費6,199
 2012年決算 資料費62,262(臨時費54,433)、図書費6,223
 2013年決算 資料費96,729(臨時費88,967)、図書費6,199

 2013年予算 資料費78,448(臨時費70,686)、図書費6,200
 2014年予算 資料費28,547、図書費23,830
 2015年予算 資料費28,283、図書費23,612


2. 第4回指定購入リストの意味
 記事では第4回指定購入リストが市教育委員会から購入を指示されたものだとされているが、掲載されている1枚目のリストは全て大活字版文庫となっている。(No.1で掲載されているISBN 978-4-86055-666-2は「神様のカルテ1-1」誰でも文庫版。リストイメージに載っている資料の出版社コードが86055となっているが、これは大活字文化普及協会がに割り当てられているもの)
 記事では郷土史料、児童書が第3回リストより大幅に増えているとの事なので、図書館として整備すべき本が入っていないから、市教委で欠けている部分を選書して購入指示した可能性が高いと思われる。


3. まとめ
 今回の記事の主な立脚点は閉館中の資料購入と新築移転時の資料追加購入に大きく分かれる。

 1点目については自治体毎のやり方の違いもあるので市教委が密かに買っていたという見立ては今回の情報では立証が十分に為されているとは思えない。書誌データを開館までに入れていく必要もあるので、市教委が独自でやっていたとしても閉館前から移転準備作業に入っていたCCCが知らされてないというのは想像できないし、前年と同程度の資料費1300万円が措置されていた事だけでは証明にはならない。休館も継続して購入する事は予算立案時から考えられていたと考えるのが妥当ではないか。

 2点目の第4回購入リストに関しては大活字文庫、児童書、郷土史料について具体的な証拠が示されていたので下記に数字をまとめてみた。

 リニューアル時購入資料 35,000冊
 内訳)
  古本 13,000冊
  新刊 22,000冊
     (児童書 30+533冊以上、郷土史料 200+626冊以上、大活字版文庫含む)

 第4回リストの性格については、1ページ目で出ている資料が全て大活字版文庫である事や児童書、郷土史料が第3回リストまでの購入分より大幅に増やされているという指摘は重要だと思うし、CCCの選書能力についての疑義があった事が分かる話だが、それ以上の結論は過剰だと思う。

参考)Business Journal「料理本など中古本大量購入のツタヤ図書館に年3億税金投入!市が危機感で6千冊追加購入」 (掲載日2016年7月5日)