出版社や著者の中に「図書館は文庫版ばかり買っている」というような批判をされる方がいる。私もここ2、3年の間に全国で30館近い図書館を見て回っているが、そのような図書館は見た事がない。
図書館の資料は長期間多くの方が読む事が出来るように耐久性を重視している。単行本でも装備作業時にバーコードやRFIDの添付だけでなく、フィルムコート掛けして耐久性を向上させている。
また資料費が厳しい図書館の場合、単行本を先に買っていれば文庫版の購入は見送られている事も多い。
このような状況を見ていると何を批判しているのかが今ひとつピンと来ない。また具体的な図書館名が出てくる訳でもないので検証も出来ないなと思っていたところ、早川書房が「その女アレックス」がベストセラー化して一躍その名を知られる事になったルメートル「天国でまた会おう」について愛蔵版(単行本)と文庫版上下巻を同時刊行するという珍しい試みを行った。このような場合に図書館がどちらを選択するのか調べてみた。
1. 都道府県別の保有状況について
全国の動向についてカリールの横断検索を用いて各都道府県内の自治体の愛蔵版/文庫版の選択状況について自治体数を集計してみた。(都道府県立図書館も1自治体としてカウント)
「天国でまた会おう」は820自治体が所蔵。(内訳:愛蔵版のみ60.7%、文庫版のみ20.0%、両方保有19.3%)なお愛蔵版は初版のみで増刷予定なしで売り切れたと報道されているので、リクエストなどで購入が遅かった場合に文庫版を選択せざるを得なかった可能性がある。愛蔵版と文庫版同時発売で自治体の6割がたが愛蔵版のみ選択(両方購入を含めると8割)というのは、価格よりも耐久性重視の傾向が強いと言っていいのではないか。
東京都については市区町村図書館のWebOPACも確認しているが、町田市が文庫版のみとなっていて驚いた。
文庫版比率が高い都道府県としては滋賀県(47.4%)、三重県(42.9%)があるが、こういった都道府県について資料費削減など影響していないか検証を考えてみたい。
2. 愛知県内の公立図書館の購入状況
市区町村レベルの具体的な購入冊数について愛知県内の公立図書館を例に調べてみた。
調査方法:
カーリルの横断検索機能を使用して「天国でまた会おう」を検索。各自治体のWebOPACでどちらを何冊所蔵されているか確認した。
所蔵状況:
- 所蔵:43自治体 愛蔵版:53冊 文庫版(上・下巻):20セット 計73セット
- 愛蔵版・文庫版両方を所蔵:7自治体
- 愛蔵版1冊のみ所蔵: 37自治体(愛知県図書館含む)
- 文庫版のみ所蔵: 3自治体
- 未所蔵: 3自治体
- 不明: 1自治体(移転準備中でWebOPACが停止中)
- 名古屋市は千種、瑞穂の2館が愛蔵版、文庫版両方を所蔵。
中川、熱田は所蔵なし。
それ以外の館はいずれかを所蔵。(愛蔵版4館、文庫版13館) - 田原市、武豊市は1館で愛蔵版1冊、文庫版1セットを所蔵。
- 豊田市は中央図書館と公民館2室で愛蔵版を各1冊所蔵(計3冊)
- 稲沢市(3館)、春日井市(1館10室)、一宮市(5館1室)は愛蔵版を2館(室)で所蔵。
愛知県の場合:
所蔵状況:
- 所蔵:32自治体 単行本(上・下巻):27自治体 文庫版:8自治体
- 単行本・文庫版両方を所蔵:3自治体
- 文庫版のみ所蔵: 5自治体
- 未所蔵: 15自治体
- 不明: 4自治体
- 調査日: 2017年11月16日未明